第2回 久留米絣大博覧会・特別対談
久留米絣協同組合 × 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
カケル オモイ、カケル ミライ 産地の想い、産地の未来
これまで × いま : 久留米絣の産地の過去と現在を語る
―産地の現状についてお聞かせください―
山村 健(久留米絣協同組合 理事長/藍染絣工房 代表):
近年、様々な伝統工芸の産業は衰退傾向にあって、厳しい状態にありますが、久留米絣は他の産地でやっていないことに挑戦し、世界でも珍しい技術を繋いでいる産地であることが強みだと考えます。その点を今回の万博でPRができればと思っています。
―厳しさの理由はどこにあるのでしょうか―
山村:
需要が減少していることが厳しさの一番の理由です。
安価な工業製品も多数選択肢がある中で、手工芸なのでやはり価格が高くなってしまいます。なぜ手工芸でやらないといけないのか、という理由を伝えるのに時間を要します。実際に手に取って使っていただければ良さを理解いただけるのですが、手にしていただくために、価値をどのように伝えていくのかということが一番の課題だと感じています。
―久留米絣の産業構造について教えてください―
野口 和彦 (久留米絣縞卸商協同組合 理事長/オカモト商店 代表取締役):
久留米絣は、大きくは手織と機械織という二つに分かれます。昭和32年に国の重要無形文化財として指定されました。文化財としての技術を持ちながら産地としてのすそ野が広いのが特徴で、こういったピラミット型の組織形成をしているのは他の産地にない特徴です。
重要無形文化財は、歴史上または芸術上価値の高い無形の「わざ」について、保存伝承のため特に重要なものが指定されます。重要無形文化財に指定された当初は「手くびり」「藍染め」「なげひの手織り」の各技術の代表者が保持者として認定されていましたが、絣の制作が江戸時代より団体として継承されているとして、昭和51年の法改正により、「重要無形文化財久留米絣技術保持者会」が保持団体に認定されました。
技術者そのもの、産地そのものが認定されていることが象徴的です。
江戸時代に生まれた絣の技術が当時からまったく変わらずに伝承されている重要無形文化財がありながら、そこにとどまらずに、機械織をされている方は化学染料を使用したり、動力織機をつかったり、いろいろな番手の糸を使ったり、創意工夫の中でいろいろな素材感が生まれてきて、久留米絣の産地ではそれらを総じて「絣」と捉えています。
産地 × 未来 : 産地の未来を考える
堺井 啓公(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 担当局長/中小企業・地域連携):
今後の久留米絣の展望を考えたときに、誰に情報を届けて、どんな人に購入して着てもらうことが理想だと考えますか?
池田 大悟(久留米絣協同組合青年部 部長 /池田絣工房 代表):
産地の中でも作り手それぞれで思いが違う部分もありますが、久留米絣はもともと庶民の女の子が考えた工芸品で、庶民の普段着やおしゃれ着として流通してきたものです。数多くの人に惜しみなく絣の技術を伝えた創始者のように、できるだけ多くの方に着てもらいたいという思いは、脈々と続いていると思います。次の世代に繋げるためにも、若い方に向けてどういった発信ができるのかということは継続して考えています。
堺井:
理事長がおっしゃったように、工業製品が多数出ている中で、どのように存在感を出して、どう伝えていくか、戦略的に考えないといけませんよね。久留米の方にとっては昔から身近にあるという方も多いかもしれませんが、地元の方でも身近なものでなくなっていく可能性もありますし、福岡県内の方、日本の方、世界の方にどのように魅力を伝えていくかを考える必要があると思います。
もちろん、すべての方に着てもらう必要はないと思います。価格が高くても購入する価値を知ってもらうことが大切だと考えます。
池田:
久留米絣の価値は古くならないことで、むしろ使用すればするほどどんどん良くなっていくのが一番良いところだと思います。糸を染め分けて織っていくので、生地に裏表がなく、プリントのものと違い洗っても柄が褪せず、柔らかさが増していきます。大切に扱えば長年着続けることができるのが魅力です。
堺井:
久留米絣はどんな商品と相性が良いのでしょうか。
池田:
久留米絣を代表する商品は「もんぺ」です。
もんぺは作業着というイメージが強いと思いますが、最近はより日常着に近い形でもんぺを提案しています。ユーザーは女性が多い印象です。購入される方の7~8割が女性だと思います。
堺井:
男性に向けても、シャツやジャケットなどいろいろな商品が提案できそうですよね。
山村:
久留米絣のお客様はやはり女性が中心でした。地元で様々なイベントを企画して実施していますが、イベントに来場される女性のお客様の送迎で男性が会場に来た際に、自分たちも何か購入できるものがないか…という声あり、それがきっかけで、男性用の商品も作るようになりました。絣のシャツを着た男性たちからも「これ良いね」と言われるようになってきて、少しずつ男性にも久留米絣の良さが伝わっているのではないかと思います。最近はジャケットなども作っているんですよ。
野口:
今の久留米絣のユーザーは60代の女性が中心ですが、常に新しい世代に魅力を伝えていくことが必要だと思っています。30~40代の方へ絣を知ってもらうための取り組みが重要ですし、メインユーザーに近い年代の男性へ、マーケットを広げていきたいと考えます。
堺井:
60代の女性が中心ということですが、ある年代になったら絣が着たくなるということなんでしょうか?
野村 周太郎(久留米絣協同組合 副理事長/野村織物 代表取締役社長):
私の感覚的なものもありますが、昔は年間で100万反生地を作っていた時代もあり、洋服だけでなく布団や座布団など、日常的に使うものに絣が使われていました。身近な綿織物として色々な形で絣に触れて育ってきた世代で、着心地の良さといった絣の価値を知っているといった背景があると考えます。
今の若い人が60代になった時に購入するか…と考えると、そもそも久留米絣を身近に感じていないので、このままだと購入されないと思います。たくさんのものが溢れている中で、ファストファッションしか着たことがないという若者も増えています。久留米絣を知らない若い世代にまずは知ってもらうことが必要で、そのためには久留米絣を身近に感じてもらうものづくりや環境づくりをすることが大切だと思っています。
堺井:
身近にある綿織物が久留米絣でできたもので、それを使って育ってきた世代がいる一方で、今は周りの環境としても久留米絣に触れる機会が減ってきているので、そこでいきなり”久留米絣の服を着よう“、といっても難しいですよね。そういった意味では身近な環境に寄り添った製品を出していく必要があるかと思います。九州だと家具が有名な大川市など、関連する産地との関係を作っていくことも良いのではないでしょうか。
環境配慮やSDGsの意識が高まる中では、工業製品ではなく、身近にある良いものやより環境に良いものを選択するという消費の流れもあります。あの人が作ってくれたものだから、長く大事に使おうという思いが生まれる、顔の見える生産地としての価値を伝えることを、福岡・九州から全国に広げていきたいですよね。
時代を捉えて新たな仕掛けをしながら、産地の未来を創造できれば良いと思います。
久留米絣 × HAORI : 久留米絣の新定番を創造する
野口:
地域の話でいうと、博多祇園山笠の長法被は久留米絣、帯は博多織で作られていて、福岡の伝統工芸として昔から親しまれているんです。実はこの長法被は、20年前に山村理事長のところで作ったものなんですよ。
堺井:
福岡の山笠と、久留米絣の産地が繋がっていたということなんでしょうか。
野口:
法被を着る文化は実はあまり古くからではなく、福岡市内だと、東区の箱崎縞が使われていたこともあるようです。
山村:
昔は縞がメインだったようですが、明治期に久留米とのつながりがあって、ある町から特別なものを作りたいという依頼を受けて作ったのがはじまりと聞いています。その後、他の流れからも声がかかり、長法被の多くが久留米絣になりました。それぞれの模様や柄を作るにあたって、絣の「括り」の技術が必要だったんですね。
―長法被を現代に置き換えた、現代版の羽織プロジェクトも進んでいると聞いていますー
山村:
長法被に代表されるように、久留米絣の羽織は現代でもとても格好良いと思います。今、もんぺに次ぐ新しいトレンドにしていきたいと取り組んでいます。
大阪関西万博 × 久留米絣 : 万博を通じて描く絣の未来
―2025年大阪・関西万博に向けた取り組みについてメッセージも込めて伺えますか?―
池田:
久留米絣を未来へ継承していくために、2025年の大阪関西万博は、一つのマイルストーンであると捉えています。万博は、日本国内はもちろん世界中の方々に久留米絣の魅力を発信する絶好の機会だと思います。
特に、インバウンドの方に向けて、久留米絣の技術の素晴らしさ、職人の格好良さなどのイメージを伝えて、産地の魅力を伝えたいです。素材に触れることができる展示に加えて、ワークショップで創る楽しさを伝えることができれば…など、いろいろな展開を考えています。
堺井:
会場でのプレゼンテーションに加えて、万博を機に、実際に産地に来て、楽しんでもらうことができれば良いですね。万博のテーマに関連した体験旅行商品を掲載するポータルサイト「Expo 2025 Official Experiential Travel Guides」も、開設しました。産地での体験を含めた旅行商品を作ってみてはどうでしょう。職人と繋がり、コミュニケーションを持てることは特別な体験価値になるはずです。
池田:
最近は工房を訪れる海外の方も多いんです。自分で糸を染めて、コースターを作る体験なども行っています。皆さんとても満足していただいているようです。
山村:
私の工房では、ファブリックボードづくりをしています。特に染めの体験は海外の方から人気です。
堺井:
お土産として持ち帰って、部屋に飾れるのが良いですよね。世界各地に織物の文化がありますし、文化交流が生まれても面白いと思います。
山村:
いろいろな展開が考えられますね。万博を通じて、国内外の方々に久留米絣の技術や魅力を広く発信していきたいと考えます。
堺井:
万博会場に“たくさんの人が来る“だけではなく、それぞれの地域に深く入って、素晴らしいものに出会っていただく機会にしたいと思っています。万博は大阪だけのイベントではありません。全国の方々に参加してもらって、国内外の方々に、地域を訪れてもらえるような取組を目指しています。会場での展示・イベントに加えて、産地を訪れてもらい、職人とのコミュニケーションや体験を提供することで、技術や製品の素晴らしさを伝えることができると考えます。来年2025年4月の万博開幕に向けて、着々と準備が進んでいます。一緒になって頑張りましょう。
番外編 :カスリにカケル未来
久留米絣に係わる織元や問屋(卸商) が産地をあげて取り組む大型イベント「第2回 久留米絣大博覧会」。今回のテーマである“カケル オモイ、カケル ミライ” に合わせて、各織元・問屋が考える未来への想いを “カスリにカケル未来” と題して表現してもらいました。想いを込めた一言を、ご紹介いたします。
PROFILE
堺井 啓公(さかい よしまさ)
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 担当局長(中小企業・地域連携)
山村 健(やまむら たけし)
久留米絣協同組合 理事長/藍染絣工房 代表
野口 和彦 (のぐち かずひこ)
久留米絣縞卸商協同組合 理事長 /オカモト商店 代表取締役
野村 周太郎 (のむら しゅうたろう)
久留米絣協同組合 副理事長 /野村織物 代表取締役社長
池田 大悟 (いけだ だいご)
久留米絣協同組合青年部 部長 / 池田絣工房 代表