皆さんは、「いりこの産地」と聞いて、どこを思い出すでしょうか?
実は、長崎県は全国の煮干しの三分の一と生産量日本一。
そして、長崎の煮干しは生産量だけでなく、品質も高く評価されています。
今回、九州探検隊が訪れたのは、長崎県雲仙市の橘湾。
雲仙といえば、活火山である雲仙普賢岳を思い浮かべる方も多いと思いますが、
美味しいいりこの原料が獲れる湾があるんです。
島原半島の西側に位置する、美しい円形のカルデラ湾が今回の舞台。
実はこの橘湾、いりこの原料である「カタクチイワシ」が多く獲れる好漁場なのです。
いりことはカタクチイワシの煮干のこと。
さらに魚体の大きさに応じて区分されています。
大きさによって、
チリメン(3cm以下)、カエリ(3.5~4.5cm)、小羽ダレ(5.0~5.5cm)、
中小羽ダレ(6cm)、中羽ダレ(7~8cm)、大羽ダレ(8.5cm以上)、
と呼ばれています。
橘湾では、春生まれは4~6月に、夏生まれは7~9月に、秋生れは10~12月に、湾外からシラス、カエリ(体長2~3cm)として餌を食べるために来遊し、 12月まで湾内で成長しながらカエリ、小羽として漁獲されています。
島原半島は、有明海の西側。
そして橘湾は、その島原半島の西側に位置します。
この場所は、北上する外洋水と、南下する栄養豊富な有明沿岸水がまじりあう場所。
さらに雲仙岳からの清流が注ぎ込み、魚のえさとなる良質なプランクトンが発生しやすい環境なのです。
次に、カタクチイワシにとって重要なのが「水温」。
橘湾の海底には、熱いマグマだまりが存在することが分かっています。
カタクチイワシにとって、この湾の水温は、とても生育しやすい環境とのこと。
豊富な栄養に、最適な温度。
まさに火山が生み出した「天然のいけす」なのです。
期待と不安の中、いざ出港。
漁がおこなわれるのは、日が落ちてから。
探検隊は、夜10時30分に南串山町京泊港に集合。
橘湾は波がほとんど立たず、静まりかえっています。
カルデラ湾の形がこの穏やかさを生み出しているのでしょう。
今回、ご協力いただいた「天洋丸」は中型まき網漁業の許可を長崎県から受け、橘湾内で操業。
船団を構成している船は8隻です。
いよいよ乗船です。
「海中深くまでもっとも届きやすい色だから、集魚灯にはグリーンのライトを使っているんです。」
と教えてくれたのは、船長の竹下さん。
漆黒の海に浮かび上がる、神秘的なグリーンに目を奪われました。
魚群探知機を搭載した船長の船に乗せていただき、
橘湾をぐるぐると周り続けましたが、そう簡単には大量のイワシにお目にかかれません。
探検隊は、期待に胸を躍らせながらも、少し不安な気持ちになっていきました。
月が沈み、あたり一面、漆黒の闇に包まれた深夜1時頃。
ついに船が一か所に集まり始めました。
探検隊は、緑色の集魚灯をともしている漁船と、
大きな滑車を積んだまき網漁船に移動しました。
漁船には、20人ほどの屈強な漁師たちが、網を巻き上げるため待機中です。
さあ、いよいよこれからカタクチイワシと対面です。
母体となる「網船」をぐるりと囲むように「レッコ船」が網を海中に投下。
魚群を包囲したら「レッコ船」から網の一端を受け取ります。
2台の船がギリギリまで、近づき網の端と端が合わさりました。
きんちゃくの絞りのような部分を海底からひきあげ、漁師たちが巧に結び目をほどいていきます。
次は、いよいよ網のひきあげです。
真っ黒い海の中から、すこしづつ引き上げられる網の中に「バチバチ」はじける黒い点滅。
ざざざああああああ
おびただしい魚の群れが姿を現しました。
カタクチイワシだけではなく、いろんな魚がまさに「一網打尽」。
探検隊も、本物の漁を目の前にして、興奮を隠せませんでした。
さて、同時に別部隊が乗り込んだ小型漁船のことも、忘れてはなりません。
大きな「敷網(しきあみ)」を搭載した1台の漁船。
船に乗る人数は2~5人と小規模です。
漁場は、天洋丸ほどは沖合には出ず、沿岸に近いやや浅めの場所で漁を行います。
今回、船に乗せていただいたのは「せき海産」と「井上水産」。
深夜1時に出発し、場所をこまめに変えながら漁場を探します。
小型漁船は小回りが効くので、魚の群れを見つけたら即座に移動。
ついに、魚群を発見しました。
敷き網漁の特徴は、なんといっても右側に備え付けられた長い鉄柱。
そして、大きな網です。
集魚灯で集めた魚群の下に網を敷き、いっぺんにすくいあげるのです。
この作業を実に何回も何回も行い、大漁のカタクチイワシを捕獲するのです。
網ですくいあげる時に、一度船をググっと30度ほど網側に傾けるのですが、
そのたびにからが滑り落ちそうになりました。
小人数で、何回も何回も、網から引き上げる姿を見て、
新鮮で、美味しい「いりこ」が生まれる原点を見たような気がしました。
いりこの原料であるカタクチイワシ。
どのような方法で、漁をするかご存じでしょうか?
橘湾で行われている漁法は、主に二つ。
「まき網」と、「敷網(しきあみ)」です。
まき網とは、網船と裏漕ぎ船、火船、運搬船、それぞれの役割をもった8隻の船が協力して、
大量の魚をいっきに捕まえる方法。
敷網(しきあみ)は、小型漁船に搭載した網ですくいあげる漁法です。
今回、探検隊は、この2種類の漁船に乗り込み橘湾のイワシ漁を確かめてきました。
お話を、中型まき網船団に戻します。
「天洋丸」は、まき網漁を3回終え、戻ろうとしていました。
いつしか空は白みはじめ、夜明けが近づいてきたようです。
ちなみに、夜明けのいりこは別名「バラケのイリコ」。
胃の中がからっぽで、雑味の少ない良いいりこになるそうです。
朝もやの中を漁港に戻ると、さっそくイワシは、加工場へ運ばれます。
運搬船で持ち帰ったいりこの加工はすでに始まっています。
サイズごとに選別されたイワシたちは、
鮮度が落ちないうちに、高温で一気に茹で上げられます。
その後、温風乾燥機を使用して乾燥させます。
数時間後、全体が早く乾燥するよう、途中を返します。
異物があったら丁寧に手で取り除き、出荷。
ゆであがったばかりのイワシをつまみ食いさせてもらいました。
・・・ホクホクで美味しいです!
こんな美味しいイワシからからできた「いりこ」でとったダシは
きっと美味しいに違いないと確信しました。
一見すると池のように穏やかな橘湾。
しかし、その地下には巨大なマグマがいまもなお活動しています。
そんな雲仙の海は、まるで漁師の方々の優しさと厳しさの混じった笑顔のよう。
これからも九州中を駆け巡って、知られざる地元の素晴らしいモノたちを探していきます。