タフに支える服づくりを
2009年の流行語大賞にトップ10入りした「ファストファッション」という言葉が世間に浸透して、早いことに2019年現在で10年が経ちました。
「安くて手軽なファッション」の息吹は今も絶えることなく、その消費は繰り返されています。
買いやすいものは捨てやすく、流行りものは飽きられやすい。
「ファッション」という言葉には「トレンド」と「消費」というワードが付きまといがちです。
10年後、20年後、30年後。その服がワードローブに残る可能性について、探検隊は考えたことはありませんでした。
「10年、20年、30年と在り続ける服があるんです」。
そう教えてくれたのは、糸島市を拠点に全国にその販路を広げている服飾メーカー「SCLAP/okanSclap(スクラップ/オカンズクラップ)」の西山英樹さん。
デザインからパターン、縫製まで一貫して手がける西山さんの商品は、機能性から着想を得てデザインに落とし込むという、逆流に等しいアイデアによって生み出されています。
着心地がいいから着ていたい、シルエットもいいからまとっていたい。
シンプルながら、それがずっと続けられる優れた耐久性までも実現した商品には、ファンも多いそう。
伸縮性のない生地ながら、軽いヨガができるほどの動けるパンツに仕上がるのは、人の動作を考え尽くしたシルエットがあってこそ。
中には同型で2~3本を購入するリピーターも珍しくないんだとか。
一番印象的だったと話してくれたのは、とあるミュージシャンのこと。
全く同じデザインのものを6年間で3本購入、うち2本をまだ未使用でコレクトしているそうです。
「まだ下ろすのがもったいないって言ってくれる、その感覚が嬉しいです」。
テーラーがワークウェアを作っていた、1900年代初頭の縫製スタイルで縫い上げられた服をコレクトしたくなるミュージシャンの気持ちには、探検隊も納得です。
"okan"のエッセンス
okanSclapの"okan"とは、妻・友香さんのこと。
2010年に「SCLAP(スクラップ)」として英樹さん単独で始動したブランドは、2013年に「okan」が加わったことにより、女性の感性が生かされた、雑貨のラインを兼ね備えたブランドとして再起動を果たしました。
ふたりの役割は主に英樹さんは"ベース"=服づくり、友香さんは"アクセント"=雑貨や刺繍・編み物を担当。「細かいことばかりに目が行ってしまう僕は、時に全体を見失う時もありますが、そこにアクセントに限らず俯瞰的な視点をくれるのが妻。
ブランドとして今までにない新しい商品が展開できるようになったのも、"okan"の存在あってのことです」。
長年飽きがこないよう、できるだけ不要なデザインをしない英樹さんのクラフトに味付けをしてくれる、友香さんの手仕事は、今やブランドに欠かせない要素として、新たなファンを創出しています。
バックやヘアバンド、幼児用のスタイに至るまで、耐久性あるブランドイズムを汲みつつ、女性の視点を取り入れた、ユーモラスある商品をラインナップ。
"okan"の一押しは250Kの対荷重のあるパラシュートコードで編み上げたパラコードバッグ。海外旅行やフェスに身軽に持ち出せるバッグとして、人気の一品です。
今季のおすすめをもうひとつ。ウールのスーツ生地を使用した、ボトムスやスカートです。廃業したテーラーで、スコットランドやイングランド産の、触れるだけで上質とわかる一級品の生地を"発掘"。
今では作ることが難しい丁寧な織りが光る生地を、普段着として楽しめる商品づくりに取り組んでいる最中とのこと。高級生地の仕様とは裏腹に、ウエストはゴム、小さな虫食いには愛らしいステッチ。
ネットに入れれば洗濯も可能です。ふたりの子ども、とも言える商品は、もうじき産声を上げるそう。
最上のリラックスウェアを生んでいく
創業から東京、京都と活動の拠点を移した、今や "ふたり(2人)の子ども"を持つ夫妻が、現在の拠点地・糸島での暮らしを選んだのは、子育てを考えてのこと。
子どもたちの感性を育む糸島ならではの自然豊かな環境に加え、以前に福岡在住経験のある英樹さんが感じた、自由なファッションの発想を受け入れる土壌が整うまち。
都市部への良好なアクセスさえ叶える、モノづくりの拠点としての糸島に惚れ込んだそう。
「時期によってはアトリエにこもり、服づくりに専念することもしばしば。そんな時に窓の外にふと目をやると、山が見えるんですよ」。
少し外に出ると海があり、泳ぎに出かけることも、夏の一家のお決まりのワンシーンになったそう。
身近に四季を感じられる環境は、季節の感覚も大切に生かす服づくりに還元されていきます。
店舗を構えずに、2017年からはポップアップスタイルのみの販売へシフト。
服を通して、未踏の地に赴くことが毎度の楽しみだそうです。
「買ってもらって、着てもらった瞬間とか、試着した瞬間の反応が一番うれしいから。そこを人に渡したくないことが、ポップアップを始めた本音ですけどね」。
全行程を一貫させた服づくりだからこそ感じられる、格別の醍醐味もそう添えた英樹さん。
「一番喜びの部分を味わって、アトリエに帰って、また作って。その繰り返しがあれば、これからも続けていける気がします」。
10年、20年、30年と、ずっとやり続けたいモノづくりへの想いは、今日も糸島の大きな空の下から広がっていきます。